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伝説の画家、ティンガティンガのいきざま
東アフリカではすっかりポピュラーになった絵画「ティンガティンガ」。
その創始者はたった4年でこのジャンルを築き上げ、風のように去っていきました。
1960年代末に、タンザニア最大の都市、ダルエスサラーム郊外にひっそりと誕生した「ティンガティンガ」。
鮮やかな色づかい、そして素朴ながら味わい深い表情を浮かべる動物たち、タンザニアの野生動物や自然、人々の日常生活などを大胆な構図で描く絵画です。
その創始者が、エドワード・サイディ・ティンガティンガ。
40歳の若さでこの世を去りますが、弟子や親族たちによってその技法は受け継がれ、「ティンガティンガ」という絵画の一ジャンルとして、その名は今も成長し続けています。
天折の天才が生んだ、新たなるアート
タンザニアの多くの若者と同様に、一念発起して地方から大都市に出てきたティンガティンガ。
転機が訪れたのは1968年のこと。前年に結婚し、1児をもうけていたティンガティンガは、生計を立てるのに苦労していました。
稼ぐための方法を模索するなか、彼はあることに気づきました。
街の観光客向けの土産物屋にタンザニアのアーティストの絵画がない。
並んでいたのは、ほとんど隣国コンゴからの作品ばかりでした。
「ないのなら、私が描けばいいのではないか?」。
専門的に絵画を学んだ経験などない。それでも思いは揺るぎませんでした。
「誰もやらないなら私がやろう」
そう決意した彼はそのまま雑貨屋に行き、エナメルペンキを数色とひと組のブラシ、希釈用のシンナー、そして建築資材の合板を買い込みました。
ここにひとりのアーティストと、ティンガティンガ画の基本フォーマットが誕生したのです。
時代が下り、合板ではなくキャンバス地に描かれることが多くなったティンガティンガですが、わずか6色のエナメルペンキをベースに、重ね塗りなどの巧みな塗り分けで構成される点は変わっていません。
さて、36歳にして、絵画の道へ足を踏み入れたティンガティンガ。
感性の赴くままに描いた絵は、たちまち近隣に住んでいた北欧人の間で評判を呼ぶことになりました。
少しづつお土産物屋にも置かれるようになり、ティンガティンガ一家の生活は安定していきましたが、ここで彼は、成功を独占するのではなく、親類や仲のいい友人たちにも分け与えるという選択をします。
合板にエナメルペンキで動物や自然を描くその技法を、惜しみなく伝授し始めたのです。
ティンガティンガ一派は、さらに大きな成功を納めるようになりました。
しかし、終幕はあっけなく訪れます。
友人の車に同乗していたティンガティンガは、警察からの検問時に誤射を受け、命を落としてしまいました。
アーティストとして活躍したのは、わずか4年。
しかし、その後も沢山の人々がアートで生計を立てられ、「ティンガティンガ」という一つのジャンルを確立した功績は決して色褪せることはないでしょう。